宇宙サラダ

ひたすらどうぶつの話します

なぜマナティーはボートにゲキトツして死んでしまうの?原因をさぐる!

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こんにちは!!!メセグリンです!!!!!

前回の記事でマナティーの死因別ランキングを紹介しました。
死因ランキングの上位に「ボートにゲキトツする」といういたましい事故があります。あきらかに人間に原因がある死因としてはいちばんです。

cosmosalad.hatenablog.com

冒頭のイラストでかいたように驚くほど多くのマナティーがからだに痛々しい傷をもっています。スクリューにえぐられた傷跡があったり、ひれがほとんど破壊されていたり。。。皮肉なことに、目立つ傷が多いおかげでマナティーの研究者はマナティーの個体識別がやりやすいほどだそうです。近年の水上ボートはびっくりするほどのスピードが出るので、こんなのにせっしょくしたらそりゃ大ケガするわ…と想像するだけでもふるえがとまりません。。。

でも、マナティーたちは首尾よくボートをよけることはできないのでしょうか?

マナティーは目がよくありません。けれど、たいへんせんさいな耳、聴覚をもっているといわれているので、ちかづいてくるボートをよけながら泳ぐことはかんたんそうに思えます。わたしたちだって、うしろから車が近づいてくるのがわかりますよね。

水中で自由自在に泳げるはずの動物たちが、どうしてボートにゲキトツして死んでしまうの?

この問題を真剣に考えた人物にダグラス・アダムスがいます。
ダグラス・アダムスはどうぶつの研究者ではありません。世界的大ベストセラーとなったSF小説「銀河ヒッチハイクガイド」をかいたことで有名な小説家です。
彼は生前、世界中の絶滅危惧動物に会いにいくという企画に挑戦し、本を執筆しています。「これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」という本です。

これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景

これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景

 

 

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

 

アダムスが訪れたのは中国の揚子江(ヨウスコウ)でした。そこにはかつて「ヨウスコウカワイルカ」がいたのです。 
カワイルカとは、海ではなく川にすむ世にもめずらしいイルカです。ヨウスコウカワイルカマナティーと同様、ボートにゲキトツする事故があいついでおこっており、それが絶滅の原因のひとつともなりました。*1

カワイルカとマナティーは多くの点で似ているとわたしは思っています。

  • 川で暮らしている*2
  • 背びれが退化している*3
  • 川の水はにごっていて数m先は見えないので、目がよくない
  • 耳はよくきこえる

 アダムスと共著者のカーワディンは、このとくちょうをふまえて次のような予想をたてました。そして、水中に録音機を沈めて、じっさいに水の中でボートの音がどのようにきこえるのか実験したのです。

あちこちからボートの「ゴーーーーー」というエンジン音がきこえてくると、あたりは雑音でうめつくされてしまう。

目ではなく、音にたよって水中の状況を把握しているカワイルカにとって、この状況は地獄だ。

人間の場合はほとんど視覚にたよってあたりの状況を認識します。そんな人間におきかえて考えると、まっくらやみの中で、まぶしい光を四方八方から点滅させられる、といった状況に似ているかもしれません。
そんな状況、何十時間もつづけばまさに地獄ですね…!!!!

カワイルカの立場にたつと、ボートの音はどのようにきこえるのだろう?と動物の視点になって考えたアダムスの姿にわたしははっとさせられたのでした。

ところで、

わたしは、「これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」を読んですくなくとも10回は大爆笑しました。本を読んでこんなに笑ったことはありません。ダグラス・アダムスはまがいもなく天才でした。
かくしてわたしはアダムスの大ファンとなってしまったので、じつはわたしが書いた本「もしもキリンと恋に落ちたら」でも彼のたぐいまれなセンスについてちょこっと紹介しています。よかったらチェックしてみてください。

もしもキリンと恋に落ちたら デートでわかる どうぶつ図鑑

もしもキリンと恋に落ちたら デートでわかる どうぶつ図鑑

 

 

*1:ヨウスコウカワイルカは2006年に絶滅宣言が出された。しかしその後わずかに目撃情報もあるという。 ヨウスコウカワイルカ - Wikipedia

*2:マナティーは、アマゾンマナティーをのぞくと川と海を行き来する。いずれにしても多くの時間を淡水である川で過ごすことができる。

*3:マナティーにはもともと背びれはない。カワイルカは背びれのなごりのようなものがあり、もともとあった背びれが退化していると思われる。