宇宙サラダ

ひたすらどうぶつの話します

なぜウイルスは優しくないのか?ウイルスの生態系における重要な役割

ある種のウイルスに感染すると、厳しい症状が出て、ときに死亡する場合もあることはご存知ですよね。でも、前回の記事、「なぜ風邪をひくとせきが出るのか?ウイルスの生態系における重要な役割」で説明したように、宿主が死んでしまうとウイルス自身の繁栄もそこで終わってしまいます。ウイルスにとっては人間に長生きしてもらった方がいいはずなのです。いいかえれば、宿主を傷つけることなく優しく感染できるウイルスはもっと繁栄するはずです。なのになぜわたしたちはこんなにも凶暴なウイルスにおびえながら暮らさなければいけないのでしょう?

 

容態が急変するときにおこる、サイトカインストームとは?

新型コロナの特徴のひとつに、病状が突然悪化して一瞬で死に至ってしまうケースがあるようです。

前回の記事で、わたしたち人体には、バイタルデータを正常な状態に戻す機能、現状を維持する機能がはたらいていると説明しました。これは、「バランス型フィードバックループ(前回の記事参照)」の典型例です。人体における現状維持機能は、ホメオスタシスともよばれます。

たとえば人間は、体温があがればあがるほど、汗をかきます。汗をかくと気化熱によって体を冷ます効果がありますよね。「体温が上がれば上がるほど、逆にそれを下げようとする」構造が備わっているので、「発汗機能」はホメオスタシス(バランス型フィードバックループ)の一例です。

ウイルスとたたかう免疫も同様です。人体の免疫システムはウイルスを検知すると、そこに免疫細胞を結集させ、ウイルスと激しいたたかいを繰り広げます。「ウイルスが増えれば増えるほど、逆にそれをおさえこもうとする」構造があるのです。

これと異なり、新型コロナ・インフルエンザ・スペイン風邪などで患者の容態が急変して死亡するとき、サイトカインストームがおこっているのではないかと言われています。*1 サイトカインストームとは、驚くことに、ふだんバランス型フィードバックループとして機能するはずの免疫システムが、急に自分自身に牙をむき、自己強化型フィードバックループに変貌してしまう、免疫系の暴走現象のことです。サイトカインとよばれるシグナル物質が放出されれば放出されるほど、免疫機能が活性化し、それがさらなるサイトカインシグナルを放出するという悪循環がおき、自分自身を傷つけてしまうのだそうです。

免疫システムがバランス型から自己強化型へと変わるとき、そこに運命のわかれみちがあるのです。

なぜ免疫システムは暴走するのか?

なぜ免疫システムは暴走するのでしょう?人体のバグなんでしょうか?暴走しない免疫にはできないのでしょうか?

でももしこれが…、バグではないとしたら?

もし…、免疫システムが…、自滅への道を意図的に選んでいる…、としたら?

もし…、免疫システムが…、みずからすすんで死のうとしているのだとしたら?

わたしが頭のおかしい人間だと思えた方は、ぜひ次の本を読んでください。あなたを進化論最高峰のミステリアスな世界へとお連れせねばなりません。

みずからすすんで死ぬための仕組みが、生物にはたくさん備わっている?

「若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間」は、2019年に読んだ本の中で圧倒的なベストでした。1年以上経った今も、この本のテーマについて考え続けている自分がいます。あまりにも衝撃的で、完全にわたしの思考を支配してしまいました。

端的にいうと、この本は「老化研究の最先端」について書かれた本なのですが、まじすごいです。わたしたちの浅はかな老化や健康に対する常識をことごとく覆すだけでなく、数々の証拠を提示しながら、一貫して巨大なメッセージが述べられているのです。そのメッセージとは…、「老化するように生物は進化した」という衝撃的なものです!

ネズミ算、再び

前回、ネズミ算は自己強化型フィードバックループの典型例で、実におそろしい結果をもたらすことを、計算結果をふまえて説明しました。はじめ2匹からはじまるネズミが、毎月12匹のネズミを産むと、わずか1年後には276億を超えてしまうのです…!

しかし、ここで疑問に思った人もいると思います。なぜ現実世界では、足の踏み場もないほどネズミだらけになっていないのか?

その謎にこたえる鍵は、まさに「バランス型フィードバックループ」にあります。
つまり、「ネズミが増えれば増えるほど、ネズミの増加をおさえる」仕組みがはたらいているのです。だからこそネズミは増えすぎることなく一定の数を保っているわけです。

その仕組みとはどんなものでしょう?

たとえば、食料問題があります。ネズミが増えると、ネズミのエサとなる資源が少なくなるため、その結果ネズミの増加は抑制されます。

天敵の増加もあります。ネズミが増えるほど、ネズミをエサとするフクロウやキツネなどの天敵たちも繁栄しやすくなるので、ネズミの増加にストップがかかります。

他にも、なわばり争いがあります。ネズミが増えると、ネズミ同士のなわばり争いが発生しやすくなり、その結果ネズミの増加も抑制されると考えられます。

まだあります。

「ネズミが増えれば増えるほど、ネズミの致死率を高める」ようなはたらきをするもの。まさにこのとおりのはたらきをする存在がいます。そう…、伝染病です…!

動物たちの感染症

感染症にかかるのは人間だけだと思ったらおおまちがいです。

中世ヨーロッパを震撼させた、かのおそるべき伝染病「ペスト」は、ノミが媒介し、ネズミ社会をもパニックに陥れます。たとえば、プレーリードッグはペストの蔓延によって数年おきに個体数激減を経験し、回復しては激減を繰り返しているのです。*2

ウサギの個体数コントロールのため、人の手によってばらまかれたウイルス「ウサギ粘液腫」はヨーロッパとオーストラリアでなんと97%ものウサギを死に追いやりました。*3

ある種のコウモリを絶滅の危機に直面させているのは、「ホワイトノーズシンドローム」という”カビ”によって引き起こされる伝染病です。*4

他にも、牛疫*5、豚コレラなど家畜にかかるものもたくさんあります。

ネズミ、ウサギ、コウモリ、家畜に共通する特徴といえば、

  • 密集して大群で生活する
  • 出産サイクルが早い

のいずれか、または両方です。

これらの特徴は、まさに感染症が蔓延するための必須条件です。それと同時に、こういった特徴には、生態系のバランスを崩してしまう脅威が潜在しているのです。2匹のネズミが1年後に276億になるような際限ない繁殖が繰り返されれば、自然は食い荒らされ、生態系壊滅しますもんね。

生態系のバランスが崩れるときにおこること

あるセンセーショナルな一例を「若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間」から紹介します。

イナゴとよばれるバッタのような昆虫が数年おきに大量発生して収集がつかない事態になることがあるのを知っている人も多いかと思います。プラネットアースⅡでは、東京23区を隙間なく埋め尽くすほどのサバクトビバッタ大量発生の様子がカメラにとらえられていました。

そういった大群を見ると、「美しい自然」ではなく、「鳥肌がたつ」のような形容をする人の方が多いと思います。その直感は正しいのです。イナゴの大群は、生態系の脅威以外のなにものでもありません。イナゴの通り道に自生する植物をのきなみ食べ尽くしてしまうわけですから。

そんなイナゴの大群が、その後どうなるか考えたことはありますか?

1875年アメリカ合衆国西部で、おそらく観測史上世界最大の大量発生をおこしたロッキートビバッタは、推計12兆匹もの大群で日本の国土をさらに超えるほどの面積を覆い尽くし、植物を食い荒らすだけでなく、大量のタマゴを産み落としたそうです。*6*7 ネズミ算の特徴から見てきたように、このタマゴが孵化したときの地獄っぷりは想像を絶します。

このバッタ、なんと1902年を最後に目撃情報が皆無です。標本はたくさん残っているそうですが、生きているロッキートビバッタはまったく見つからない。つまり、悪夢の大量発生からわずか30年以内に、絶滅しました…!!!

自己強化型フィードバックループは、それをおさえる仕組みがないかぎり、自己破滅的でもあることを示唆しています。

ウイルスにかかりやすくなることで、種全体が長い年月を安定して生存できる?

大量発生、大量繁殖がいかにおそろしいものかわかってもらえたのではないでしょうか。それをおさえられなかった種、または生態系は、多くの巻き添えとともに絶滅してしまうこともあるのです。

「老化」や「ウイルスへの感染しやすさ」といった特徴が進化するなんて、信じがたいことではあります。*8 でも…、もし本当にそんな進化が起こるのだとしたら、考えられるシナリオはひとつしかありません。

「老化せず、ウイルスも効かず、ひたすら繁殖効率を最大化させてきたような”最強の生物”は、その繁殖力が仇となってある日突然死に絶える。」

だからこそ、逆に「老化」や「ウイルスへの感染しやすさ」がもっとも自然に適応した特徴になりうるのです。

イナゴやネズミの例を出しましたが、もちろんヒトもこの例外ではありません。動物たちとは違い、人類は感染症を克服してしまうかもしれません。でも、そうなればなおさらわたしたちは「生態系を守る」責任を負うことになります。自然のなすがままに身を委ねることを拒む以上、自然の力を借りずとも環境を守り抜く意志が必要なのです。それができなければ、まじやばいことになる。そんな気がしてきませんか?

実はわたしは、人類が大昔からこの難題とたたかうさまざまな方法を、文化・伝統・本能・生態の中に埋め込んでいる例を何度も発見し、そのたびに驚かされました。おそろしい風習から、すばらしい文化まで。女性・男性の最大の関心事ともいえる”あれ”も、そのひとつ。今後紹介していきます。

 

*1:サイトカイン放出症候群 - Wikipedia

*2:Plague-infected prairie dogs have shut down parts of a Denver suburb - CNN

*3:兎粘液腫 - Wikipedia

*4:コウモリを死に追いやるカビ、米で流行 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

*5:2011年に根絶宣言が出された。

*6:Albert's swarm - Wikipedia

*7:若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間

*8:かつて進化生物学会の主流では、特殊なケースを除けば、自身の利益を大きく犠牲にして、種・群全体の利益になるような行動を進化させることはないと考えられてきた。数理モデルによって何度も示されているという。しかし近年、デイビッド・スローン・ウィルソンなどの影響によってその流れが変わってきているように見える。「若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間」の著者の一人も彼の影響を受けている。

なぜ風邪をひくとせきが出るのか?ウイルスの生態系における重要な役割

わたしは「銃・病原菌・鉄」をよんで以来、伝染病や病原菌といった存在のミステリアスさに気付いてしまいました。以降病気について考える機会が増えたんですが、ある日、別の本(後述)を読んでいたとき、ウイルスなど病原菌に衝撃的な「役割」があることに気付きしゃっくりが止まらなくなったので、この驚きを共有したいと思います。

なぜ風邪をひくと”せき”が出るのか?

まず、「なぜ風邪をひくと”せき”が出るのか」考えてみます。

風邪のウイルスが喉や気管や肺に根をおろすと、そこでどんどん増殖して炎症をおこします。人体は自身を防衛するために、「せき」をすることでウイルスを体外に排出して被害をとどめようとします。

しかし、ここで逆の視点からも考えることが重要です。

ウイルスは自力で増殖することができません。人間や動物などほかの生物のちからをかりなければ増殖できないのです。
人間や動物はやがて死にますから、自力で増殖できないということは、宿主をのりかえないかぎりウイルスは確実に死に絶えてしまいます。つまり、ウイルスの立場から考えると、「どうやって宿主から宿主へのりうつるか?」という戦略*1を考えることがきわめて重要になるわけです。そう考えると「せき」のようにウイルスをばらまく行為はウイルスにとっては最強の戦略といえそうです。

つまり、「風邪にかかるとせきが出る」という現象は、

  • ”せき”をすることでウイルスの被害を最小化したい人間
  • ”せき”をさせることで宿主チェンジの効率を最大化したいウイルス

この両者の利害が一致したことによって発生しているのです。

この興味深い相互作用は、フィードバックループという考え方で説明することができます。

フィードバックループとはなにか?

フィードバックループとは、あるシステムの状態が、そのシステムの状態の変化のしかたに影響を与えるような構造のことをいいます。言葉で説明するとめっちゃむずかしいですが、事例や図で説明すれば感覚的に理解できると思うので、あきらめずにわたしを信じてください。

風邪の例に戻って説明します。

人間はじぶんを守るために、”せき”や”くしゃみ”をしてウイルスを追い出そうとします。この仕組みは、ウイルスの増殖による刺激によって発動します。ということは、ウイルスが増えれば増えるほど、”せき”や”くしゃみ”が発動して、ウイルスは体外へ排出されやすくなります。

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「ウイルスの数」に注目すると、増えるほど”せき”によって排出されるため、増えすぎることなく一定に保たれる

この様子をみると、人体には、正常な状態を維持しようとするちから*2が常にはたらいていることがわかります。この場合の正常な状態とは、ウイルスなどの異物がいないか、十分少ない状態ということです。現状を維持する力安定させる力、といってもいいと思います。

このような仕組みはバランス型フィードバックループとよばれます。

バランス型フィードバックループは、身のまわりにありふれてるので大層なものには思えないかもしれません。ブランコを一度だけ揺らすと、前後に揺れながら、だんだん振り幅が小さくなって最後には真ん中で止まりますよね。ブランコが高い位置にあればあるほど強く中心に引き戻そうとする力がはたらくわけです。バランス型の影響下にあるブランコのようなシステムは、力を加え続けないかぎり(こぎ続けないかぎり)、最後には正常な状態に戻って落ち着くという特徴があります。

一方、これと逆の性質を持つもうひとつのフィードバックループがあります。そしてそれは、わたしたちを驚愕させるような結果をうみだすことがあります。それは自己強化型フィードバックループとよばれ、好循環または悪循環という名前で知られるものでもあります。

風邪の感染が拡大していく様子を考えてみましょう。

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「せきをする人の数」に注目すると、「せき」が増えるとさらに増える

風邪の人がせきをすると、ウイルスは拡散されて別の人にうつる可能性が高くなりますね。そうして風邪の患者が増えれば増えるほど、せきをする人の数も増え、風邪がうつる人もますます増えます。うつる人がますます増えれば、せきをする人もますます…

こうなると、人間から見れば「悪循環」、ウイルスから見れば「好循環」ですね。よくできた自己強化型フィードバックループは、わたしたちの直感を凌駕する効果を発揮します。世界のコロナウイルスの感染状況を見て気付いた人も多いと思いますが、はじめはゆっくりとひろがっていたウイルスが、ふと気付くと猛スピードで蔓延してとんでもない状況になっていたというようなことがおきます。先ほどのバランス型とは対照的に、自己強化型は安定するどころか、状況を一変させてしまう力をひめています。いくところまでいってしまうのです。

このような自己強化型フィードバックループの例として、印象的な事例は他にもたくさんありますが、わたしが唖然とさせられた具体的な例をいっこ紹介します。

  • ある新種のネズミのカップル(メス+オス=2匹)がいました
  • そのカップルは、メス6匹、オス6匹、計12匹のこどもをうみました
  • 子ネズミは1ヶ月でおとなになり、子ネズミどうしでカップルをつくります
  • 新たなカップルは親と同じように計12匹のこどもをうみます
  • これらすべてのカップルはこれから「毎月」こどもをうみます(毎月12匹うむ)
  • うまれたネズミは1年間死ぬことなく生きのびます

さて、はじめ2匹からはじまるこの新種のネズミの家族は1年後、総計何匹になっているでしょう?

これはネズミ算として知られている問題です。1年後このファミリーの合計は、なんと、276億8257万4402匹にもなります!!たった2匹のネズミの祖先が1年後に276億匹をこえるネズミの親となるのです。ひっかけ問題ではなく、ふつうに計算するとそうなります。この結果はわれわれの直感を裏切るようなものですよね。初月に14匹、翌月には98匹、翌々月に686匹、はじめはゆるやかに増えますが、だんだん増加数は爆発的になっていきます。これをさらに1年続けようものなら、わけのわからない天文学的な数字になってしまうんです。

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ネズミの増え方(12月の数に比べ、ほとんどの月は数が少なすぎる)

ネズミ算とは、まさに「ネズミが増えれば増えるほど翌月にうまれるネズミはさらに増える」という自己強化型フィードバックループの典型例だったのです。そしてこれは自己強化型フィードバックループのおそろしさをよくあらわした例でもあります。

ちなみに、この新種のネズミの生態ルールを少しかえてみると、またもおもしろい洞察が得られます。たとえば上の例では、「うまれたばかりのネズミは1ヶ月でおとなになり、翌月にはこどもをうむことができる」と仮定していますが、これを「3ヶ月でおとなになり、3ヶ月以降に毎月こどもをうむことができる」と仮定すると、1年後の新種ネズミの数はわずか6万6458匹におさまってしまいます!

ここから推察できることは、自己強化型のシステムには、とりかえしがつかなくなる「しきい値」のようなものがあり、そこをなんとかコントロールできれば悪循環の連鎖を劇的におさえることができるということです。コロナウイルスのようなパンデミックにおいても、どのパラメータをおさえれば感染爆発を防ぐことができるか、研究がくりひろげられていることと思います。

自己強化型フィードバックループによって生物は進化する?

2種類のフィードバックループと、それらがおよぼす結果の特徴を説明しました。おそらく読んでもらった方のうち何割かには、このような考え方に強い興味を示す人がいるかと思います。わたしもそうでした。もっと興味があれば「世界はシステムで動く ーいま起きていることの本質をつかむ考え方」を読んでみることをおすすめします!ものごとの見方を根本的に変える可能性を秘めている本です。

***

先述で「ウイルスの被害を最小化したい人間」と「増殖を最大化したいウイルス」の利害が、”せき”や”くしゃみ”といった行為によって一致すると書きました。実はこの利害関係の一致そのものも、自己強化型フィードバックループの影響下にあると考えることができます。

次のシナリオを考えてみます。

  • あるとき、たまたま”のど”周辺に定着するウイルスがあらわれる
  • あるとき、のどに違和感を感じると、気道の圧力を高めて口から異物を排出しようとする生物があらわれる(原始的な”せき”)
  • ウイルスは、原始的な”せき”を利用して拡散するために、ますますのど周辺を狙い、”せき”を誘発する傾向が出てくる
  • 生物は、のど周辺の感覚をますます研ぎ澄まして、原始的な”せき”を洗練させ、ウイルスに対抗する
  • ウイルスは洗練された”せき”を利用してますます拡散し、ますます”せき”を引き出すような性質を洗練させる
  • 生物は、ますますのどや気管周辺の感度を高めて、”せき”の精度を高める
  • ウイルスはますます拡散し、ますます...

この様子はまさに自己強化型フィードバックループです。つまり、人間とウイルスの両者の利害が一致した先に、”せき”や”くしゃみ”といった生理現象がぐんぐん効率化し、進化したと考えられるのです。人間とウイルスが協力してこの現象をつくりあげたようにも見えますね。

進化にかぎらず、人間の社会・経済活動、自然現象など多くの複雑なシステムでは、「卵が先か?ニワトリが先か?」問題がぶちあがることがよくあります。これはたしかに興味深い疑問ですが、わたしは「どちらが先か?」よりも「両者の関係が自己強化型フィードバックループを形成するか?」に着目することがものすげー重要だと思います。

ウイルスの生態系における重要な役割とは?

さて、実は今回わたしが本当にしゃべりたかったことは”せき”の進化のことでも、フィードバックループについてでもありません。冒頭で言及した「ウイルスがもつある重要な役割」についてです。そのこたえは少しぞっとさせられるものかもしれません。次回説明します。

 

cosmosalad.hatenablog.com

*1:ウイルス・細菌など、寄生生物が宿主をのりかえる戦略について興味がある方には、心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで、をおすすめします!想像をはるかに超えるSFのような実話や仮説が次々と登場します。

*2:人体においては、このような「維持」の仕組みはホメオスタシスとよばれる。血圧、血糖値、体温など、さまざまなものが、正常値から外れるとそれをもとに戻そうとする力学がはたらく。ホメオスタシスは生命体の特徴でもある。

マナティーは水に浮くのか?沈むのか?カナヅチって本当はすごい才能?!

こんにちは!!メセグリンです!!!

今日もマナティーの話がとまりません。誰かとめてください。

マナティーのきもちを理解するために、わたしがもっとも気になったことのひとつが、「マナティーは浮くのか?沈むのか?」そして、「浮きたいのか?沈みたいのか?」ということです。

はっきりしたことはわからないのですが、様々な情報を集めて、わたしが導きだしたこたえをここでのべたいと思います。

浮力とはなにか?

そもそも、どうしてわたしたちは水にぷかぷか浮かぶのでしょうか?それは浮力があるからです。水にもぐろうとしても、うかぶように押し戻される力が浮力です。ところが、ある一定以上の深さまでもぐると、肺の中の空気が圧縮されて浮力の力がよわくなり、やがて重力の力がうわまわって、まるで落下するように沈んでいくポイントがあります。ダイバーたちにはよく知られている現象で、フリーフォールとよばれます。

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この特徴はつまり、つぎのようなことをしめしています。

  • 潜水するときは、もぐりはじめが一番きつい
  • ある程度の深さまで潜ると、こんどは浮かんでいくのがきつい

 

マナティーはどうやって沈むのか?

みんなも潜水をやってみた経験があるかもしれませんが、もぐりはじめってきついですよね。マナティーは数分おきに息継ぎしないといけないので、あのきつさを何回もくりかえさないといけないんです。1日終わったらへとへとになってしまいそうです。
マナティーは深いところまで潜水する動物ではありませんが、それでももぐる必要がありますから。川底の草を食べたりね。

そこでマナティーは、このきつさを軽減する仕組みをもっています。その名も…

オステオスクレローシス!!!!

必殺技のように言いました。

osteo(オステオ)というのはギリシャ語に由来する「骨」をあらわす言葉で、sclerosis(スクレロシス)とは、硬くなる現象のことをさします。sclerosisといえば、Atherosclerosisは有名で、動脈硬化の英名です。

オステオスクレローシスとは、その文字どおり、骨がめっちゃ硬くなり、重くなる現象なのです。*1

人間でも骨硬化症といって、オステオスクレローシスを発動する病気があるそうです。骨が硬くなるのはいいことのようにもきこえますが、かたくなりすぎると折れやすいのです!骨にはコラーゲンが多く含まれ、これが骨を柔軟に折れにくくしています。かたさとしなやかさのバランスが折れにくさの秘訣だったわけです。

マナティーにはオステオスクレローシスが見られます。おそらくかれらはつよい骨をあるていど犠牲にして、骨を重くして沈みやすくする道を選びました。マナティーはオステオスクレローシスを潜水するときの「重し」としてつかっているのです!!

つまり、マナティーはカナヅチなのです!!

ずばり!!マナティーは水に沈むのではないでしょうか!!

カナヅチな動物たち

水に沈むことで有名な動物には、カバがいます。カバは、湖の底をてくてくと歩くように泳ぎます!!そんなことができるのは、体の構造に、潜水の重し*2があるからにほかなりません。 


Most Amazing Hippo RUNNING, WALKING and SWIMMING Underwater

実際、カバにもオステオスクレローシスやそれと似た骨密度を爆上げする能力があるそうです。*3*4

哺乳類界最大のミステリーのひとつ、クジラはどのように進化したのか?の鍵をにぎるのはカバです。DNA解析の結果、現存の哺乳類のうちクジラにもっとも近縁な動物はカバであることがわかりました。この事実は、衝撃的なもうひとつの事実を示していると思います。

クジラはカナヅチ動物から進化したかもしれないということです!!

この話は別の記事でしゃべりまくります。

 

 

しかし刑事さん。マナティーは哺乳類なので、水面に出て呼吸しなきゃならないじゃないですか。そのとき重い骨は浮かぶのに邪魔なんじゃないですか?
はたして、数分おきに呼吸しなければいけない動物が、ほんとに沈みたいなんて思いますかね?

つづく 

 

*1:https://en.wikipedia.org/wiki/Osteosclerosis

*2:浮力を調整するための重しのことをバラストという

*3:Hippopotamus Underwater Locomotion: Reduced-Gravity Movements for a Massive Mammal https://academic.oup.com/jmammal/article/90/3/675/876592

*4:Hippopotamus (Animal) (English Edition)

なぜイルカの赤ちゃんはしっぽから産まれるの?

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こんにちは!!!メセグリンです!!!!!

今日もこりずにマナティーの話かい!!やれやれ!!と思ったあなたに朗報です!!今日はイルカの話をします!!!!!!

前回、どうして逆子の赤ちゃんのほとんどは帝王切開でうまれるのか、という話をしました。そして、マナティーの赤ちゃんは半分くらいの確率で逆子で産まれてくるということも紹介しました。(逆子の出産はなぜ帝王切開なの?そしてなぜマナティーは逆子でも平気なの?!

じつは、イルカの場合、ほとんどの赤ちゃんが逆子で産まれてくるのです
尾びれから産まれるのがふつうなので、もはや「逆」ではありません。イルカにとっては頭からうまれるのが逆子だといえますね。

 

でも、なぜイルカはしっぽから産まれてくるのでしょうか?
今までいくつかの説明を見てきましたが、どれも次のように説明しています。

イルカは水中で出産するため、頭から先に出てくると息できなくておぼれちゃうから!!!!!

たしかに!!!!

と思われるかもしれませんが、わたしはこの説明では納得しません。
だって、頭から先に出ようが、しっぽから先に出ようが、どっちも息できないんです!!!!
赤ちゃんは、へその緒をつうじて酸素をもらってるので、じぶんで呼吸しなくてもいいようになってるのです。だから、どっちから先に出ようと、へその緒がつながっているかぎりおぼれてしまう心配はないのではないかとわたしは思います。

事実、たまに頭から産まれてくるイルカもいるようだし、はじめに紹介したようにマナティーの半分は頭からうまれてきます。水中でこどもを産む動物といえば、ほかにカバがいます。カバも基本的に人間と同じで頭から産まれてきます。
つまり、水中でも遠慮せずに頭から産まれてきていいんだよ、ということです。

でも、なぜイルカはしっぽから産まれてくるのでしょうか?!?!(2回め)

調べましたが、残念ながら、真相はわかりません。。。

もしかしたらこれは、多くの人が見落としている「謎」かもしれません。

出産や子育てにかかわる行動は、自然界ではこどもの死に直結するので、大きな淘汰の圧力がはたらいているはずです。うまく出産させることができない動物は、うまく出産できる動物に負けて絶滅しちゃうわけです。そう考えると、イルカもおおむかしは地上のどうぶつと同じように頭から産まれていたけれど、あるとき、しっぽから産まれてくる方が安全になった転換点があり、そういうイルカが生き残ったのだと考えることができますね。*1

海で出産するとき、しっぽから出産するとなぜ安全なのか。残念ながらそのこたえはわかりませんが、生物のしくみについては、このように一見わかっていそうなことでも、わからないことだらけなのです。

*1:イルカやクジラの祖先といわれるプロトケトゥスはかなり水中に適応した生活をしていたと考えられているが、どうやら出産するときは地上にあがって産んでいたようだ。それを示す証拠のひとつとして、妊娠した状態の母親の化石が見つかっており、その化石では赤ちゃんが頭から出てくるようスタンバイしていたのだ。つまり、イルカは海に少しずつ出ていく進化のある時点で、頭からではなくしっぽからうまれるようにきりかわった可能性が高い。New Protocetid Whale from the Middle Eocene of Pakistan: Birth on Land, Precocial Development, and Sexual Dimorphism

逆子の出産はなぜ帝王切開なの?なぜマナティーの出産は逆子でも平気なの?!

こんにちは!!!メセグリンです!!!

とつぜんですが、今日は出産の話をします。

逆子の赤ちゃんは帝王切開で産まれる。という話をきいたことはありますか?

多くの赤ちゃんはお母さんのおなかの中で頭を下にして、さかさまの状態で、誕生のときを待っています。けれど、たまに産まれる前になっても、頭が上、足が下の状態でスタンバイしている赤ちゃんがいます。「おれは常識にとらわれない」と言っているかのようですね。これを逆子(さかご)といいますよね。

逆子の赤ちゃんは帝王切開(ていおうせっかい)つまりおなかを切る手術をして産むのがほとんどなのだそうです。なぜでしょう?!

すごい気になったので調べました。
わたしが理解したのはつまりこういうことです。*1

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  • 赤ちゃんがスタンバイしている子宮は骨盤に囲まれています
  • 産道を通過して出ていくとき一番の難関になるのは、骨盤の出口を通過するところです。骨はほとんど伸び縮みできないので
  • 赤ちゃんの体で一番大きいのは頭です。頭さえ通過すれば、出産はほとんど成功です
  • 逆子の場合、足がはじめに出てきて、最後に頭が通過することになります
  • 体は外に出たまま頭が骨盤にひっかかってしまうと、へその緒が頭と骨盤にはさまれ圧迫されてしまいます
  • へその緒は栄養や酸素を赤ちゃんに供給する役割がありますが、圧迫されると酸素が届かなくなります。同時に、まだ頭が外に出ていないため、赤ちゃんは口で呼吸することもできません
  • この状況が長く続くと大変危険です。こうなることをあらかじめ回避するために帝王切開することが多いようです*2

わたしたちヒトをはじめ、多くの哺乳類にとって出産は一大イベントです。特にヒトの場合、二足歩行するようになったため骨盤の出口が小さく、しかも脳が大きくなるよう進化したので赤ちゃんの頭が大きいというダブルの困難をかかえています。だから、母親は相当の苦労をして子どもを出産するというのはみんな知っていますよね。逆子だと、もっと難しくなるということです。

さて、ここからはマナティーの場合の話をします。マナティーとヒトでは、ちょっと状況がちがいます。

マナティーの大きい赤ちゃん

マナティーはめっちゃでかい赤ちゃんを産みます!!

産まれるときもうすでに1mもあるそうです。体重は30kgにもなるとか。。
ヒトの赤ちゃんの大きさは、お母さんの大きさの比率で考えると、哺乳類界でも相当大きい方ですが、マナティーはその数倍もあり、動物界トップクラスです!!

どうしてそんなでかい赤ちゃんを産めるのかわかりますか?!
ヒントはすでに紹介しました。出産のとき難関になるのは、骨盤から出てくることなのです。

マナティーには骨盤がありません〜〜〜!!!!
退化しました。うしろ足といっしょにね。

マナティーの場合、産道が骨に囲まれておらず、柔軟な筋肉組織に包まれているだけなので、胎児を大きく育てられるというわけです。

そう考えると、ヒトの母親は動物界でも屈指の苦しみを経験するといっても過言ではないかもしれません。

マナティーの逆子の赤ちゃん 

骨盤がないということは、出産にかかわるルールがわたしたち人間と大きくことなる可能性がありますね。

マナティーは半分くらいの確率で逆子の赤ちゃんを産みます。じつはこれ、驚くことではありません。イルカはもっと圧倒的な確率で逆子の赤ちゃんをうむのです。つまり尾びれから先に赤ちゃんが出てくるのです。

水でくらす動物は、わたしたち人間と異なるルールがあるようです。

 

 

ところで話かわりますが、どうぶつの出産について以前からどうしても納得できないことがありました。

ジャイアントパンダの出産です。

ご存知のかたも多いかもしれませんが、ジャイアントパンダは有胎盤*3の中でも突出して小さいこどもを産むことで有名です。あんな大きいパンダが、ネズミのように小さく目も見えない非力な赤ちゃんを産みます。

それなのに、めちゃくちゃ出産で苦しむのです!!
出産がながびいて母親が死んでしまうケースもよくあるそうです。ジャイアントパンダには無礼を承知でいいますが、なにがそんなに苦しいんだろう?!と思ってしまいます。。。ヒトのように巨大な頭をもった赤ちゃんを産むというわけではないですから。

たぶん、わたしたちが知らない、出産をむずかしくする構造があるのかもしれません。

マナティーの出産の話は、マナティー界のレジェンド「ジェシー・R・ホワイト」による本にくわしくあります。マナティー好きにはめっちゃおすすめできます。

 

*1:骨盤位 - Wikipedia

*2:逆子の自然出産がすべて危険になるというわけではないと思いますし、帝王切開が安全というわけでもないと思います。現状では、帝王切開のほうがリスクが少ないと多くの医師が判断しているという状況だと思います。わたしは専門家ではないので、厳密なことを知りたい方は産婦人科の先生に確認ください。

*3:胎盤をもつ動物。ざっくり言うと有袋類以外の哺乳類 

あったかい場所に集合する寒がりなマナティー!マナティー流の寒さ対策を紹介!

こんにちは!!!メセグリンです!!!!!!

今日もしょうこりもなくマナティーの話します!!!!
マナティーのおもしろいとこはいろいろありますが、その中のひとつに「めっちゃ寒がり」というのがあります。

おまえ寒がりなん??!!まったくそういうふうには見えんけど!!!!

って気持ちになりますね。
寒がりなのはわたしも同じです。ただわたしの場合、ユニクロヒートテックのソックスと、ダイソンの空気清浄機付きヒーターという2つのアイテムを手に入れた結果、寒さを克服しつつあります。*1

しかしマナティーヒートテックのソックスをはかすわけにはいきません!!
寒さに無防備なマナティーはあまり寒くなると死んでしまうのです…。*2あんなに体が大きい動物で、寒くて死ぬなんて他にきいたことないんですけど…。水温が20度をくだると危険信号だそうです。*3

だから冬になるとマナティーはあったかいとこをもとめて集まってきます。
なんと以下の動画では、300頭ものマナティーがいっきょに大集合です!!ふだんマナティーはおおぜいで群れをつくりませんが、寒くなってきたときだけは話は別なのです!!


See 300 Manatees Congregate Together In Florida's Warm Water

ところで、火力や原子力など多くの発電所は海沿いにつくられるのがふつうです。なぜかと言うと、熱くなりすぎた蒸気や原子炉を冷やすために海水がつかわれるから。これを冷却水といいます。発電機関を冷ますためにつかわれた冷却水は、海にもどされます。この海水はとてもあたたかくなっているのです!!

だからマナティーは寒くなるとひんぱんに発電所のまわりに集まってきます!あたたまった冷却水をもとめて…。マナティーにとっての発電所は、わたしにとってのダイソンのヒーターと言ってもいいでしょう。

しかし、そうと知らずにむかしのアメリカでは、人間のつごうで発電所をストップさせていました。すると、だんだん発電所のまわりが冷えてきて、寒い水域にとじこめられてしまったマナティーたちがたくさん死んでしまったのです…!!!

この重大事件に気付いて以降、発電所を止めるときはマナティーたちが大丈夫かきちんと確認しているそうです。*4 すばらしいマナティーと人間の関係だと思います。

 

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*1:ダイソンのヒーターはほぼわたしだけのために会社が購入してくれました。この場をかりてお礼申し上げます。

*2:以前の記事で紹介したフロリダマナティーの死因ランキング上位にかならず「寒さ」がくいこんできます。実はめちゃくちゃ死んでるフロリダマナティー

*3:How A Little Bit Of Cold Can Kill A Big Manatee, And What It Might Mean For The Species -- ScienceDaily

*4:How A Little Bit Of Cold Can Kill A Big Manatee, And What It Might Mean For The Species -- ScienceDaily

なぜマナティーはボートにゲキトツして死んでしまうの?原因をさぐる!

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こんにちは!!!メセグリンです!!!!!

前回の記事でマナティーの死因別ランキングを紹介しました。
死因ランキングの上位に「ボートにゲキトツする」といういたましい事故があります。あきらかに人間に原因がある死因としてはいちばんです。

cosmosalad.hatenablog.com

冒頭のイラストでかいたように驚くほど多くのマナティーがからだに痛々しい傷をもっています。スクリューにえぐられた傷跡があったり、ひれがほとんど破壊されていたり。。。皮肉なことに、目立つ傷が多いおかげでマナティーの研究者はマナティーの個体識別がやりやすいほどだそうです。近年の水上ボートはびっくりするほどのスピードが出るので、こんなのにせっしょくしたらそりゃ大ケガするわ…と想像するだけでもふるえがとまりません。。。

でも、マナティーたちは首尾よくボートをよけることはできないのでしょうか?

マナティーは目がよくありません。けれど、たいへんせんさいな耳、聴覚をもっているといわれているので、ちかづいてくるボートをよけながら泳ぐことはかんたんそうに思えます。わたしたちだって、うしろから車が近づいてくるのがわかりますよね。

水中で自由自在に泳げるはずの動物たちが、どうしてボートにゲキトツして死んでしまうの?

この問題を真剣に考えた人物にダグラス・アダムスがいます。
ダグラス・アダムスはどうぶつの研究者ではありません。世界的大ベストセラーとなったSF小説「銀河ヒッチハイクガイド」をかいたことで有名な小説家です。
彼は生前、世界中の絶滅危惧動物に会いにいくという企画に挑戦し、本を執筆しています。「これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」という本です。

これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景

これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景

 

 

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

 

アダムスが訪れたのは中国の揚子江(ヨウスコウ)でした。そこにはかつて「ヨウスコウカワイルカ」がいたのです。 
カワイルカとは、海ではなく川にすむ世にもめずらしいイルカです。ヨウスコウカワイルカマナティーと同様、ボートにゲキトツする事故があいついでおこっており、それが絶滅の原因のひとつともなりました。*1

カワイルカとマナティーは多くの点で似ているとわたしは思っています。

  • 川で暮らしている*2
  • 背びれが退化している*3
  • 川の水はにごっていて数m先は見えないので、目がよくない
  • 耳はよくきこえる

 アダムスと共著者のカーワディンは、このとくちょうをふまえて次のような予想をたてました。そして、水中に録音機を沈めて、じっさいに水の中でボートの音がどのようにきこえるのか実験したのです。

あちこちからボートの「ゴーーーーー」というエンジン音がきこえてくると、あたりは雑音でうめつくされてしまう。

目ではなく、音にたよって水中の状況を把握しているカワイルカにとって、この状況は地獄だ。

人間の場合はほとんど視覚にたよってあたりの状況を認識します。そんな人間におきかえて考えると、まっくらやみの中で、まぶしい光を四方八方から点滅させられる、といった状況に似ているかもしれません。
そんな状況、何十時間もつづけばまさに地獄ですね…!!!!

カワイルカの立場にたつと、ボートの音はどのようにきこえるのだろう?と動物の視点になって考えたアダムスの姿にわたしははっとさせられたのでした。

ところで、

わたしは、「これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」を読んですくなくとも10回は大爆笑しました。本を読んでこんなに笑ったことはありません。ダグラス・アダムスはまがいもなく天才でした。
かくしてわたしはアダムスの大ファンとなってしまったので、じつはわたしが書いた本「もしもキリンと恋に落ちたら」でも彼のたぐいまれなセンスについてちょこっと紹介しています。よかったらチェックしてみてください。

もしもキリンと恋に落ちたら デートでわかる どうぶつ図鑑

もしもキリンと恋に落ちたら デートでわかる どうぶつ図鑑

 

 

*1:ヨウスコウカワイルカは2006年に絶滅宣言が出された。しかしその後わずかに目撃情報もあるという。 ヨウスコウカワイルカ - Wikipedia

*2:マナティーは、アマゾンマナティーをのぞくと川と海を行き来する。いずれにしても多くの時間を淡水である川で過ごすことができる。

*3:マナティーにはもともと背びれはない。カワイルカは背びれのなごりのようなものがあり、もともとあった背びれが退化していると思われる。